「北斗の拳」のユダはCulture ClubのBoy Georgeがモデル? それでも私には、ジョージがトキに見える

ミニマリストおばさんの身軽な推し活

YouTubeのおかげで、ボーイ・ジョージ全盛期のインタビュー動画をたくさん観ることができる。素晴らしい時代になったものです。

カルチャー・クラブの楽曲やビジュアルだけではなく、インタビューでの受け答えから垣間見える知性、大スターなのに飾らない屈託のなさも、ボーイ・ジョージの魅力です。

今回は、そんな彼のインタビュー動画から、ジョージが質問にどう切り返し、会話を展開していくのかを掘り下げてみます。

見た目にまず騙される

ボーイ・ジョージといえば、性別の境界を軽やかに超えるルックス、派手なメイクや衣装、そして美しいビジュアル。

私も、そんな外見から、華やかなセレブで、気まぐれで気難しいアーティストを勝手に想像していました。

ところが、インタビューに答えるジョージは、めちゃくちゃ早口でおしゃべり。気さくに冗談を飛ばしては、司会者や観客を笑わせています。

なんというか、「ロンドンのおしゃべりなお兄ちゃん」という感じなのです。

しかも、ただ陽気で口が達者なだけではありません。質問の意図をすばやく理解し、相手の言葉の裏にある前提を見抜き、ときには鋭く、ときには笑いに変えて返していきます。

その様子がよくわかるのが、アメリカのテレビ番組「フィル・ドナヒュー・ショー」です。

23歳のジョージが、観客を議論に引き込む

「フィル・ドナヒュー・ショー」は、司会者のフィル・ドナヒューが観客からゲストに直接質問をさせて議論を交わすスタイルで知られた番組です。

動画では、当時23歳のジョージが、観客から次々と投げかけられる質問に答えています。

その内容は、彼の奇抜なファッションから、社会に対する考え方、音楽のメッセージ、ドラッグの問題、有名人のプライバシーまでさまざま。

質問に真面目に答えることもあれば、ジョークで切り返すこともある。ときには逆に質問を投げかけ、相手をドキリとさせます。

番組を観ていると、最初はジョージの考え方や人間性に懐疑的だったように見える観客たちが、次第に彼の受け答えに引き込まれていく様子が伝わってきます。

司会者のドナヒューも、観客とジョージの間に議論が生まれるように進行しています。当時の視聴者が抱いていた疑問や偏見を表に出し、ジョージ自身がそれに答える機会をつくる。意見の違いをぶつけるだけでなく、相互理解につなげようとする司会者の手腕も見どころです。

☘️ 今回取り上げる動画はこちら

1. 質問の本質を一瞬で突き止める

観客の一番の関心は、なんといってもジョージのビジュアルです。なぜ男性なのにメイクをするのか。なぜ女性のような服を着るのか。

インタビュアーからも、「会計士や弁護士、大企業の幹部があなたのような格好をしていたら、まともに相手にされないのではないか。社会のルールを外れれば信用されにくいのでは」と、服装がもたらす社会的信用について鋭い指摘が飛びます。

これに対してジョージは、仕事がきちんとできるなら、どんな格好をしているかは関係ないと反論します。スーツやネクタイを着用していても、善良な人間だとは限らない。反対に、服装が一般的でないからといって、その人の能力や人間性まで否定される理由はありません。

「見た目がきちんとしていること」と「きちんとした人間であること」は別だ。

そして、奇抜な服装をした彼自身が、その反証になっています。外見だけで判断されがちなジョージが、こうして筋の通った議論を展開しているのですから。

さらに、ある場面では、観客の女性からこんな質問を投げかけられます。

「8歳と9歳の娘たちがジョージのファンなのですが、『どうして女の人のような格好をするの?』と聞かれます。娘たちに説明してもらえませんか?」

(I have two daughters who are eight nine years old and they love you but their question to me was why do you dress up as a woman. Can you answer that for them?)

ジョージは、単に「好きだから」と答えることもできたはずです。しかし、彼は質問をそのまま受け取りません。

「じゃあ、逆に、どうしてあなたは男みたいな格好をしているのか、娘さんたちに説明してあげたら? 男物のジャケットを着ているじゃないか」

(Well you should tell them why you’re just like a man, because you’re wearing a man’s jacket.)

そう切り返します。

女性が男性的な服を着ることは、さほど不思議に思われない。なのに、男性が女性的な服を着ると、理由を説明するよう求められる。ジョージは質問をひっくり返すことで、その背後にある偏った前提を浮かび上がらせたのです。

さらに彼は、会場にいる人たちに問いかけます。

「どうしてそんな格好をしているのか、君たちは本当に理にかなった、知的な答えを出せる?」

(Can you answer why you dressed like that? Can you really give a logical intelligent answer? )

自分が説明を求められる側から、相手に説明を求める側へ。鮮やかな立場の逆転です。

彼のすごいところは、単に言葉の切り返しがうまいことではありません。相手が何を問題にしているのか、その質問にはどんな前提が隠れているのかを瞬時に見抜くことです。

「どうしてそんな格好をするの?」という質問に、服装の好みを説明するだけでは、相手の前提は何も変わりません。ジョージは、そもそもなぜ自分だけが説明を求められるのかと問い返すことで、個人のファッションの話を、私たちが人をどう判断しているのかという深い問題へと変えてしまうのです。

2. 意地悪な質問も、ジョークでさらりと交わす

ジョージは、アメリカのトーク番組について、ゲストを困らせるような質問を投げかけたり、ゲストを泣かせるような番組が評価されたりすることがある、と話します。

そこで司会者ドナヒューは、こんな質問をします。

「今日、初めて会ったとき、あなたが少し身構えているように感じました」

(I felt a certain defensiveness from you when I first met you today.)

相手の態度を心理的に分析するような問いかけです。するとジョージは、笑いながらこう返します。

「だって、あなた、僕の口紅を盗もうとしてるんだもん!」

(’Cause you’re trying to steal my lipstick!)

ドナヒューは白髪頭にメガネのおじさん。そして、ジョージの口紅は青。観客は爆笑し、ドナヒューも一本取られた、というような表情を見せます。

ジョージは、自分の警戒心について真面目に説明することもできたはずです。しかし、相手の分析を正面から受け止めず、即興のジョークに変えてしまいました。

しかも、ただ話をそらしたのではありません。ドナヒュー自身をジョークの登場人物にすることで、緊張を笑いに変えています。質問に答えるだけでなく、その場の空気まで変えてしまうのも彼の大きな魅力です。

3. 相手を言い負かすより、会話を面白くする

番組では、カルチャー・クラブの楽曲が伝えるメッセージ、若者とドラッグの問題、有名になってプライベートがなくなることについてなど、さまざまな質問が飛び出します。なかには、答え方によっては対立が生まれそうな質問もあります。

それでもジョージは、相手の言葉をそのまま受けめて反論するだけではありません。質問の前提を問い直したり、ユーモアを交えたりしながら、自分の考えを伝えていきます。

観ていて感じるのは、彼が会話そのものを楽しんでいるということです。

相手が何を聞きたいのか。どこに疑問や思い込みがあるのか。どう返せば、自分の考えを伝えながら会話を面白くできるのか。そうしたことを、ほとんど瞬時に処理しているように見えます。

そして、そのやり取りを楽しんでいるのはジョージだけではありません。観客は彼の返答に笑い、ドナヒューも次にどんな言葉が返ってくるのかを楽しんでいるように見えます。

奇抜なファッションで注目を集めた大スターが、実際に話してみると、気さくで、頭の回転が速く、冗談好きなおしゃべりなお兄ちゃんだった。でも、話を聞いていくと、そこには鋭い観察力と、外見だけで人を判断しないという一貫した考え方があるのです。

余談:ジョージはユダよりもトキ?

『北斗の拳』に登場するユダは、ボーイ・ジョージをモデルにしたキャラクターとされています。美へのこだわりが強く、自分の美しさと知略に絶対的な自信を持つ人物です。

華やかな外見や美意識の強さだけを見れば、たしかにジョージと重なる部分があります。

でもジョージの会話には、ユダよりもトキを思わせるところがあると思います。

トキは、圧倒的な力で相手をねじ伏せるのではなく、相手の動きを見極め、力を受け流す「柔の拳」の使い手です。

相手の言葉を真正面から受け止めて、力ずくで打ち返すのではない。質問の意図を見抜き、その前提を少しずらす。すると、相手の問いかけそのものが、別の意味を持ち始める。

相手の攻撃(質問)を受け流しながら会話の主導権を握るその姿は、無駄な力や動きを一切排した北斗神拳の歴史上「最も華麗な技」を使いこなすトキの姿に重なる、と個人的には思っています。

見た目で相手を驚かせ、言葉で相手を笑わせ、考え方で相手をうならせる。

ボーイ・ジョージのインタビューには、楽曲やファッションだけではわからない、彼の人間的な魅力が詰まっています。

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