カルチャー・クラブのヒット曲といえば「Karma Chameleon」、ボーカルのボーイ・ジョージがとにかく綺麗な「80年代のイギリスのバンド」くらいの浅い知識しかなかったワタス。
そんな“にわかファン”の概念を根底からガラリと覆す、濃密で貴重な本に出会ってしまいました。
スコット・コーハン著『ボーイ・ジョージ〜華麗なる変わり者〜』(原題:Boy George / シンコー・ミュージック刊)。
カルチャー・クラブに関する書籍はボーイ・ジョージの写真集のようなグラビアメインのものが多く出版されていますが、本書はジョージの生誕からバンド結成、そして世界的な大成功に至るまでの足跡が文章で徹底的にドキュメントされた貴重な伝記です。
すでに絶版となっている本ですが、普段利用している図書館の棚で奇跡的に発見! この本を当時日本語訳して出版してくれたシンコー・ミュージック社、そして購入判断をして棚に残してくれていた図書館の司書さんには、心から感謝の拍手を送りたい気持ちです。👏(本当にAmazonで電子書籍化してほしい……!)
絶頂期の熱気がそのまま封じ込められた一冊
本書が出版されたのは1984年。 2ndアルバム『Colour by Numbers』で世界的な大成功を収め、3rdアルバムの制作に取りかかっていた時期に書かれています。つまり、世間的にカルチャー・クラブが最も脂が乗っていた「渦中」のドキュメントなのです。
この本は大きく6つのパートで構成されています:
- 世間から浮いていたジョージの子ども時代
- ロンドンのクラブシーンで有名人になっていく10代のジョージ
- カルチャー・クラブ結成まで
- デビューからスターになるまで
- アメリカでの活躍
- ジョージの言葉
中でもぐいぐい惹き込まれたのが、2〜4の時代です。
70〜80年代のイギリス。停滞していた音楽シーンに突如現れたパンク・ムーブメントにより、数え切れないほどのグループやクラブ、ディスコが生まれた時代。特別な音楽教育を受けていなくても、お金がなくても、情熱とセンスさえあれば誰でもミュージシャンになれるという、胸が躍るような熱気にあふれていました。
ジョージの少年時代や、ロンドンのクラブシーンで一躍有名人になっていく10代のエピソードは、他の自伝や音楽誌でもよく語られる定番のストーリーではあります。
ですが本書を読むと、粗暴な父親との関係や学校での孤立・放校処分といった逆風の中、大柄な体型へのコンプレックスを抱えながらも「どうすれば自分が一番魅力的に見えるか」を研究し尽くした彼の執念がよく分かります。中性的なビジュアルも当時は女装家やゲイと誤解される茨の道。それでも自分の武器(個性、知性、美貌、愛嬌)をフル活用して駆け上がる姿は、単なる「華やかなクラブキッズ」の一言では片付けられない凄みがあります。
最大の衝撃:影の功労者「ジョン・モス」は超人だった
そして、本書を読んで得た最大の収穫。 それは「カルチャー・クラブがなぜあれほどのヒット曲を生み出せたのか」という謎の答えです。
結論から言うと、それはドラマーであるジョン・モスのおかげと言っても過言ではありません。
読む前の私のジョンに対する認識といえば、「ジョージの恋人で、表向きは異性愛者を公言していたドラマー」という程度の知識しかありませんでした。しかし、そのイメージは完全に見事に打ち砕かれました。
ジョン・モスという人物の凄まじさは、以下の一点に尽きます。
- 圧倒的なプロキャリア: ザ・クラッシュの初期に参加し、ザ・ダムドやザ・ストラングラーズといった伝説的パンクバンドのツアーにも帯同。素人同然のメンバーが多かった結成時において、唯一圧倒的な音楽的キャリアを持っていた。
- 確かな鑑識眼: 「強烈な個性を持つボーカルがいるバンドこそが売れる」という確信のもと、ジョージの圧倒的なスター性を見抜いてグループ加入を決断。
- バンドの牽引と曲づくりの要: ジョージの頭の中に浮かんだメロディを口ずさみ、それをジョン、ロイ、マイキーの3人でアレンジして楽曲に仕上げるシステムを構築。
- ジョージのメンタルケアとビジネス交渉: リハーサルがうまくいかず「もう諦めたほうがいい」と弱音を吐くジョージを「君は素晴らしい素質がある」と励まし続け、空中分解を防いだ。さらに、知り合いを頼って敏腕マネージャーをスカウトし、レコード会社へのデモテープ売り込みなどビジネス面の交渉も引き受けた。
……ドラマーとして実直で高いプロ意識を持っているだけでなく、バンドの推進力であり、ボーカルのメンタルセーバーであり、ビジネス交渉人でもある。
ジョン、超人じゃないか。 これまでジョージの強烈なインパクトの陰に隠れ、過小評価していたと勝手に上から目線で申し訳なくなったほどです。ジョンがいなければ、カルチャー・クラブというバンドはこの世に存在していなかったと断言できます。
ジョンのドラムに注目して「Do You Really Want to Hurt Me」を聴いてみよう
これまではジョージの声に聴き入っていましたが、ジョンのドラムに注目して「Do You Really Want to Hurt Me(邦題:君は完璧さ)」を聴き直してみたら、新しい発見がありました。
ジョンのドラムは、決して主張せず、終始リズム隊として裏方に徹しています。けれど、よく聴いてみると、そのリズムは意外と複雑そうです。
ジョージの歌声を引き立てながらも、ベースといっしょにレゲエのゆったりしたリズムを作り出し、曲を心地よく前へ前へと進めているように聞こえます。
また、ジョンはこの曲で低く重い音を強調するのではなく、高い音を使った、というようなことを語っていたそうなのですが、チッチッチッチッという軽いドラムの音は、軽やかであると同時に、どこか不安定で浮遊するような雰囲気を生み出しています。「Do you want to hurt me?」と、傷つきやすいジョージの繊細な心を表しているよう。
カルチャー・クラブのあの独特で心地よい空気感を作り出していたのは、間違いなくジョンの確かな技術とセンスです。ぜひ、ジョンのドラムの「リズムの心地よさ」に耳を澄ませてカルチャー・クラブを聴いてみてください!
ドラムに詳しい人が聴いたらもっといろいろな発見があって深く楽しめるのでしょう。 あなたのカルチャー・クラブの曲の着目ポイントがあったらぜひ教えてください!
ジョージの名言
また、本書の最後にまとめられている「ジョージの言葉」も必読です。 当時まだ22〜23歳そこそこだったとは思えないほど、彼の語る言葉には若さと鋭い観察眼、そして妙な含蓄が同居しています。
「ヒットを飛ばすのは最高の気持ちだよ。でも一発屋で終わったら意味ないと思うんだ。ヒットを続けなきゃ。ちゃんとした音楽性を持っていなかったら長続きしないよ。」
「一人の人間としては成功したいと思う。人に『あいつはなんて賢いんだ』って言われるより、『あいつは幸福な男だ』と言われた方がずっと嬉しいよ。すべては運なんだ。その運から何を掴み取るかが問題なんだよ。」
チヤホヤされるポップスターの絶頂期にありながら、有頂天にならずどこか冷めた目で自分や世間を俯瞰しているような発言にはハッとさせられます。
当時の音楽シーンの熱気と、バンドという奇跡の化学反応を知ることができる最高の伝記です。古本屋や図書館で見かけた際は、ぜひ手に取ってみてください!

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