カルチャー・クラブの名曲「Move Away」のPVを観たことはありますか?
舞台は映画館。スクリーンの中では、ドラマーのジョン・モス(Jon Moss)とヒロイン役の女優による恋愛映画が上映されています。
そして、ボーイ・ジョージ(Boy George)はスクリーンやポスターの中と外を行ったり来たりしながら、女優に向かって歌います。
「君を傷つけた、君を泣かせた。なぜか聞かないで。僕から離れて(Move away from me, darling)」
一見すると、女性に別れを告げる男を描いた恋愛映画のようです。
ところが、よく見ると、何かがおかしい。
誰が誰に向かって「Move Away」と言っているのかわからないのです。
こちらのPV。なんと40年前に制作されたもの。色褪せない、唯一無二のカルチャー・クラブワールドが広がっています。
誰が誰に向かって「Move Away」と言っているのか?
1. ジョージの男味が強い
剣山のようにシャープなヘアスタイルに、白いシンプルなロングコート。低くて力強い歌声。でも、目元は妖艶。
このPVのボーイ・ジョージは、私の感覚では男:女=7:3くらい。ちょっとだけ男味が強いのです。
映画の中のジョージは、数々の女性を泣かせてきたであろう、イタリア映画の色男のような雰囲気を漂わせています。
2. それなのに、ヒロインが中性的
最初に引っかかったのは、ヒロインの存在です。
恋人役にしては、ずいぶん中性的。PVのところどころで男装するのですが、その姿はまるで美少年です。
もし、ジョージやジョンの恋人役を演じるのなら、もっとわかりやすく「女性」らしい人物でもよかったのでは?
実は、この女性はアリス・テンプル(Alice Temple)というモデル。彼女は当時、ジョージのガールフレンドだったとされています。
3. 映画の中では、アリスとジョンが恋人
ジョージはアリスに向かって「Move Away from me, darling」と歌いかけているように見えます。
ところが、映画の中では、アリスの恋人はジョンという設定です。
それなら、ジョージはアリスをどういう立場から見ているのでしょうか。
自分の恋人だった女性? それとも、ジョンの恋人?
この時点で、すでに話がややこしくなってきました。
4. 突然、ジョンがヌッと出てくる
ところが後半、映画のポスターがアリスからジョンに変わり、映画の中でジョージとジョンがカーチェイスを始めます。
このシーンの二人は、バチバチのライバルのようにも見えます。でも、ジョージがジョンを追いかけているようにも見えるのです。
そして今度は、ジョンがジョージに向かって「Move, move, move away」と歌いかけます。
当時、ジョージとジョンが恋愛関係にあったことを知っていると、この場面が気になって仕方ありません。
ジョージやジョンの恋人役であるはずなのに、アリスの存在感は妙に薄い。一方で、ジョージとジョンの関係が強烈に浮かび上がってきます。
もしかして、ジョンがジョージに「僕から離れて」と言っている?
5. 「Just tonight…」で、再びアリスが登場
「俺から離れな、ダーリン」と粋がっていたジョージが、突然弱気になります。
「今夜だけ、君が必要なんだ」
そう言って、アリスにすがります。
ところが、ポスターの中のアリスは、うんざりした顔でそっぽを向きます。
ジョージは本当にアリスを愛しているのでしょうか。それとも、ジョンとの関係がうまくいかず、アリスにすがっているのでしょうか。
考えれば考えるほど、わからなくなってきます。
仮説を立ててみる。でも、どこかが矛盾する
仮説1:ジョージがアリスに向かってMove Awayと言っている
ジョージはアリスと付き合っていたけれど、ジョンという恋人に心を奪われてしまい、アリスを振った。
ところが、ジョンにはつれなくされ、結局アリスにすがってしまった。
こう考えると、歌詞の「君が必要だから、手放せない」という気持ちにもつながります。
でも、それなら、なぜ映画の中ではアリスとジョンが恋人なのでしょうか。
そもそも、アリスはジョージに未練があるようにも見えません。
仮説2:ジョンがジョージに向かって歌っている
当時、ジョージとジョンは恋愛関係にありました。一方、ジョンは公の場では異性愛者として振る舞っていたとされています。
だとしたら、アリスはジョンの「異性愛者」というイメージを支える存在として登場しているのかもしれません。
ジョンは自分のイメージを守るために、ジョージに「Move Away」と言っている……?
でも、それなら、なぜアリスはあんなに中性的なのでしょうか。
そして、なぜジョージは「Time」の頃のような女性っぽさを出した姿ではなく、男味の強い姿で登場するのでしょうか。
仮説3:アリスはジョージの分身なのでは?
ここで、もうひとつの可能性が浮かびます。
アリスは、女性の姿をしたジョージなのではないか?
映画の中では、ジョンは女性としてのアリスと恋人同士になれる。でも、アリスは時折、男性にも見える。
もしアリスがジョージの分身だとしたら、映画の中では、現実とは違う形でジョージとジョンの恋愛を成立させているとも考えられます。
たとえば、ジョージが「もし自分が女性だったら、ジョンと堂々と付き合えるのに」と思っていたとしたら?
もちろん、ジョージ本人がそう語ったわけではなく、すべて私の想像です。
それでも、映画という作り物の世界だからこそ、現実では成立しない関係を描けたのではないか。そんな気もしてくるのです。
そうだとしても、誰が誰に対してMove Awayと言っているのかわかりません。
曖昧だからこそ、面白い
もしアリスが、わかりやすく「女性」だったら、どうなっていたでしょうか。
ジョージが女性との恋愛を演じているように見せながら、実は心の中にいるのはジョン。あるいは、男性も女性も愛する人物の物語。
そんな説明で、話が終わってしまったかもしれません。
でも、アリスは中性的です。ジョージもまた、男性的な面と女性的な面を併せ持つ人物です。
そしてジョンは、このPVで最もストレートに男性として描かれているように見えます。
映像に登場する人物たちの見た目や振る舞いから受ける印象と、描かれている恋愛関係が、どうにも一筋縄ではいきません。誰が誰を好きなのか。誰が誰に「離れて」と言っているのか。そもそも、私たちが見ているのは誰の物語なのか。
だからこそ、単純な男女の恋愛映画としても、ジョージとジョンの恋愛を描いた作品としても、ひとつの解釈に収まりません。
「Move Away」には、ジョージ自身の人生や恋愛、スターとしての自分、そして映画という幻想が混ざり合っているのではないか。
そんなふうに想像しています。
それにしても、当時の恋人とガールフレンドを同じPVに登場させるなんて、ジョージ、これ……かなり私生活をネタにしてない?😅
40年経っても、謎のまま
このPVは、40年前に制作されたものとは思えないほどスタイリッシュで、かっこいい。
そして、40年経った今も、アラフィフのおばさんを悩ませています。
いろいろ仮説を立ててみたけれど、結局、誰が誰に「Move Away」と言っているのか、私にはまだわかりません。
でも、観るたびに違う見方ができる。ひとつの答えに決められないから、また観たくなる。
もしかしたら、この「わからなさ」こそが、「Move Away」のPVの魅力なのかもしれません。
▶Move Awayが収録されているオススメアルバム2枚💿
カルチャー・クラブの日本での軌跡をたどる、結成40周年記念アルバム。懐かしい日本盤シングルのジャケットを再現したブックレットに加え、MVを楽しめるDVDも付属。あの頃の思い出に浸りたいファンだけでなく、当時の雰囲気や曲の背景を知りたい人も楽しめます!
1986年発表、カルチャー・クラブ4作目のアルバム『From Luxury to Heartache』。2025年発売の紙ジャケット復刻盤は、当時のジャケットと帯を再現したファン待望の一枚です。当時のカルチャー・クラブを、懐かしい装いで味わってみませんか?
💡関連記事

コメント